陽光のエクリチュール・豊島和子氏追悼

被災地に居住する家族を伴っての避難行の最中に、突然、訃報が届いた。
一瞬、言葉を喪った。

豊島和子氏(1929-2011)

言わずと知れた江口隆哉・宮操子門下の特筆すべき舞踊家であり、モレキュラーシアターの源流/母体でもあった。豊島舞踊研究所ダンスバレエ・リセ門下生の内外での活躍も浮かぶ。

<豊島和子略歴>

江口隆哉、宮操子、二瓶博子に師事

1956年 豊島舞踊研究所創設、主催
1964年 全国舞踊コンクール指導者賞受賞
1966年 八戸市芸術文化奨励賞受賞
1976年 青森県芸術文化奨励賞受賞
1992年 八戸市文化賞受賞
1995年 八戸市文化功労者賞受賞
2001年 デーリー東北賞受賞
2002年 青森県文化賞受賞
2005年 国際ソロプチミスト八戸より女性栄誉賞受賞
2006年 東奥賞受賞

社団法人現代舞踊協会会員
社団法人青森県文化振興会議会員
青森県洋舞連盟会員
八戸市文化協会会員

『千のティンガラ(星の雫)』豊島和子(2009)

かつて及川廣信が

すべては豊島和子さんから始まった。彼女の「内的」な独自な踊りが源流であった。(『豊島和子と豊島重之・・・ダンスバレエ・リセとモレキュラーシアターの源流』/PANTANAL2006)

と書いたように、或いは

当時医学生だった弟の重之を裏方の一人に抜擢させて1966年の十周年公演—私の勘に狂いはありませんでした。いつしか76年の二十周年公演を演出・構成し、86年の三十周年公演に当たっては、行き場のないリセの卒業生を中心したカンパニー「モレキュラーシアター」を結成し、その初演作「f/F・パラサイト」は東京でも好評で、翌87・89年・92年にはドイツ・チェコ・イタリア・ポーランドなどの国際芸術祭に招待されて渡航を繰り返すようになりました。私も、思うようには動いてはくれないこの身体を海外各地へと運んだ記憶は、リセの小さな歴史の重みを担っています。また、96年の四十周年公演がオーストラリア「アデレード芸術祭」招待公演や、リセのリニューアルと重なった記憶も、私には貴重なものです。(『記憶の源流/パンタナル』/前掲書)

と豊島和子氏自身が書いたように、25年間に渡るモレキュラーシアターの演劇実験/実験演劇を相互に支えてきた柱のひとつが、豊島和子氏の存在だった。

豊島重之は、次のように書く。

私は50年前の豊島和子の舞台を観た。大勢の黒い影の頭ごしに。私はとても小さかったから。なんだか怖い気がして客席の後ろのほうで「爪先立ち」していた。ウロ覚えでしかないが。

2〜3年で消え去っていく舞踊家やカンパニーもあることを思えば、半世紀もの継続には、やはりそれなりの大きな意味があろう。半面、たった一つの舞台で人々の心を震撼させたまま、消え去り得た舞踊家こそが「真に幸い」なのだとすれば、半世紀もの間、欠かさずソロダンスの舞台を踏んできた豊島和子は「幸い薄き」舞踊家と言えるかも知れない。

——「ギンリョウソウ」「蚯蚓、丘を引く」「デンデラ野」「ここはどこの細道ぢゃ」「パンタナルの蚊柱」そして昨年「セラーン=天泣」今年「ピカイア」来年「お背戸に木の実が落ちる夜は」——。

生きてしある限り踊り続けなくてはならない。それは当人の選択や責任でもなく、ましてや自己表現に徹する願望や覚悟に基づくものでもない。選択や願望の余地もなく、容赦もない、ある環境ある条件下に避けがたく生じた。強いて言えば「単に息している」ことから発したとしか言いようがない。豊島和子にとって50周年は節目ではなく、在り得ないかも知れない51・52・53回目の舞台こそが「常に既に先送りされた」節目なのだから。

<彼女はただ、彼女自身のみを知ろうとしている。>
及川廣信さんの文末の一行は、ここにも響いている。
(『地衣類の微光のその先へ』/前掲書)

いまは言葉を弄すべきではないし、思考を紡ぐこともできない。

然し乍ら、写真を「光のエクリチュール」と書いたデリダに倣えば、豊島和子氏の舞踊・身体表現には、「身体/境界線のエクリチュール」と云うよりも、それらを含めた「空間的エクリチュールに係る実時間転移の表出」とでも云うべき「気配」が認められていたように想起される。

豊島和子氏は「春の陽光ふりそそぐなか」逝かれたと聞く。
いまは静かに、陽光の中に垣間見える豊島和子氏の踊りを観感しながら、その「ジュクルパ」に耳を傾けたい、と思う。
合掌。

One Response to “陽光のエクリチュール・豊島和子氏追悼”

  1. 錫杖銀龍 « molecularmaniacs Says:

    […] ダンス・バレエ・リセ芸術監督=モレキュラーシアター演出家の豊島重之のもと、モレキュラーシアターの大久保一恵、田島千征による追悼作品が上演されるほか、及川廣信・根本忍/橋本晋哉による豊島和子追悼特別公演も予定されている。 […]

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