pantanal→3B

pantanal

pantanal

豊島重之の2006年のテクストに「パンタナルからイスムスへ」がある。これは、2006年に公演された作品「PANTANAL」(モレキュラーシアター20年/ダンスバレエリセ50年)の主旨として書かれ、後に改訂されたものだ。

その一部を引用する。

なお、(5)にある「ジュネとデリダのテクスト」とは、ジャン・ジュネ「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」(鵜飼哲訳・現代企画室)およびジャック・デリダ「火ここになき灰」(梅木達郎訳・松籟社)を指している。

(1)
余白が明滅する。
ダークマター=暗黒物質の黒い矩形の画像に騒乱のノイズ。
余白が明滅する。
モーホの丘のスラム街=ファヴェーラの暴動の音が遠ざかる。
巨大な環礁が隆起する。
大湿原を何艘もの小舟が往く。
口々に日付けを呼びあうごとに何枚もの写真が焼かれる。
一面に蚊柱が立ち、それをジュネの断章が貫く。
いつも葉書それ自体はここには決して届かず、
ディスパリシオン=消印だけが一斉に到来する。
アパリシオン=亡者たちのひしゃげた泳法。
ダークマターの画像がゆっくりと旋回し始める。

(2)
いま演劇史と世界史はどういう倍音を奏でているのか。
そこにモレキュラー演劇の契機がある。
私達は集団創造の拠点を北方の八戸に置き20年間、実験演劇を世界に発信してきた。
「極地の演劇」だからこそ「演劇の極地性」を掘り深め、
演劇の内部に自足することなく、
「演劇の外部」にこそ交響する「外部の演劇」を模索してきた。
冷戦構造崩壊後、中近東だけに耳目を奪われがちだが、
世界史のもう一つの火薬庫が中南米である事を忘れてはならない。
そのエリアのど真ん中にある大湿原パンタナル。
いわばポストコロニアルな未踏の生態系。
それこそ演劇の極地=外部なのではないか。
今作はこの巨大なヴォイドの渾身の舞台化となるだろう。

(5)
私達は、このジュネとデリダのテクストを読み続けていく事をやめないだろう。
その途上で、例えば2007年に再びそのテクストに基づく「ISTHMUS=イスムス/地峡」公演に挑むだろう。「パンタナル」には見渡す限りの壮大な「分厚い平面」を思わせる語感がある。そこに何らかの地層の褶曲が加われば、あちこちに陥没を伴なう隆起が生じるかも知れない。「パンタナル」から「イスムス」へ。寄る辺ない私達にとっての秘かな里程標として。

もちろん「解読」や「解説」は評論の仕事だろうし、この妄想ブログの目的ではない。

ただ、「演劇史と世界史が奏でる倍音」が「モレキュラー演劇の契機」と提示されている以上、これらのテクストを、無粋であるとしても、具体的に解読して(妄想して)みる必要がマニアにはあるのだ。テクストに含まれるさまざまなキーワードを、他の演劇や自称暗黒舞踏の公演パンフレットに書かれるテクストにおける「比喩」の類と同視してはなるまい。
なぜパンタナル自然保護地域=世界遺産がヴォイドなのか。

余白が明滅する。

この一行目で、マニアは震撼しなければならない。
これは、盲点「BLOTS」と盲面「BLANKS」の点滅「BLINKS」と読むべきか。

scotoma

scotoma

豊島は、「演劇ここになき灰」(2006年2月)で、「BLOTSがBLINKSする写真平面をBLANKSとよぶことができるとすれば、可視性のシステム=制度に他ならぬ写真において、盲点に支えられてきた人間の思考の盲点=SCOTOMAが明らかになる。(略)それともデリダやバタイユに促されて、盲者「を」描く位相と盲者「が」描く位相の絶えざる反照=SCOTOMATIZE MOMENTを、写真の盲面とみなすほうが早道だろうか。」と書いている。

とすると、「余白が明滅する」とは、「BLANKSがBLINKSする」=「BLOTSがBLINKSするBLANKSがBLINKSする」ということになる。

blinking

Mlle Mathilde's Web

盲点とは本来「blind spot」である。

豊島の言う盲点=blotは、Stain同様にインクなどの「滲み」のことを示すことばだが、モレキュラーの手紙演劇を想起するまでもあるまい。何かによって隠される/かき消されるといった意味のほか、blot out=記憶抹消/敵の完全殲滅といった用法もあることから、豊島が盲点をblotとした意味は多分に示唆的である。

モレキュラーシアターの眼の演劇から耳の演劇へのパサージュに関して、八角聡仁は「漏斗は「世界の遠近法/世界という遠近法を根底から狂わせてしまうパララックス=視差の失効」をもたらし、ブラインド(blind)は文字どおり盲目を見せる/盲目が見ることにおいて、「見ることの不能をまるごと〝見ないことの不能〟に全面転回」する(反)装置となる」としたが、盲目や盲者からさらに盲点/盲面そして余白に到達したように私には思える。モレキュラーは「同じことしかやらない」とされる所以である。

余白と聞くと、次の一節が初老の妄想者の頭を過る。

唇と唇との間には何があるのか。上唇と下唇との間にのぞいているもの、それは裂け目であり、間隙であり、空虚であり、あたりにぼんやりと滲みだしている不分明な境界地帯である。何と何とを分かつわけでもない負の境界線が、内部と外部とを、閉ざすことと開くこととを、言葉と沈黙とを、呼気と吸気とを、曖昧に溶けあわせ、流動的に行き交わせ、またしばし主体の意志や欲望を裏切りつつ官能的に分節化しているのだ。そこにあるものは、つまり不在である。

口唇論

口唇論

言うまでもなく、松浦寿輝の『口唇論——記号と官能のトポス——』(青土社)だ。上記の一節だけで考えるのは乱暴に過ぎるが、ここでは「不在」が問題となっている。

然し乍ら、豊島の「フィルミスト・アルトー」に対して「空隙はいずれ充填されるべきなにものかの不在なのではない。それは「非在 – イマージュ」ではなく「物質 – イマージュ」として文字どおりに読まれなくてはならない。」と八角が書いたことや、豊島が継続して「恣意性と被為性が切り結ぶ臨界」にマシニークの契機を見出してきたこととともに、能動性に対して荒々しい受動性を対置するという方法についてを、いま一度想起する必要がある。
「写真ここになき灰」における「いわば限りなく内旋を強いる無底の盲面」を。

などと妄想していたら、今年のICANOF企画展のタイトルは『Blinks of Blots and Blanks展』に決まったことに気づいた。この「3B」にこそマニアは刮眼しなければならない。

なお付言しておくが、空虚なとか無効なとか法的拘束力のないといった意味のヴォイドはまた、中身を空にするあるいは排泄するという意味もある。この辺りからも、別の妄想菌糸が直ちに伸び始めるのだが、ここでは置いておく。

プログラミング言語のCでは、

void main() {
・・・

あるいは

void main(void) {
・・・

という書き方がある(後者は、K&R C第1版で書かれていたらしいが、言語仕様的には正しくなく、コンパイラなどの環境によってはエラーとなる。少なくともOS環境下のプログラムにおけるmainの定義としては、ISO-C/ANSI-Cに準拠して

int main(void)
int main(int argc, char *argv[])

などと書くべきなのだろうが、ここでは触れない)

voidは、引数や戻り値が存在しない(必要としない)場合で、単純にメソッドあるいは関数を呼び出す場合に用いられる予約語だ。このほか汎用ポインタとしてのvoid=void*型もあるが、これはあらゆるポインタ型に変換できるポインタ型で、多くはどのような型でも受け取れる関数を作成する場合に用いられる。しかし、色々な型のポインタを渡す場合、サイズがそれぞれ異なるため、結果は保証されないことになる。

C言語については思いっきり初心者以下の超低次レベルなので、上記に(語弊はともかく)誤りがあればご指摘いただければ幸いだが、ここでは、豊島のフィルミスト・アルトーの視点をもって、上のコードを眺めてみることが趣旨だ。

void()
void main(void)
映画では、私たちはみな〔  〕であり、残酷なのだ。

マニアには見えてくるものがあるのではないか。

Paul Grand: Facing the void

Paul Grand : Facing the void

まだ冒頭のテクストの1行目しか読んでいないのにこの有様なので、次稿を期す。
いつになったらISTHMUSに到達できるやら・・・

Tim Gallagher : Isthmus of Corinth

Tim Gallagher : Isthmus of Corinth

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